Ⅹ(クロス)
(ここは・・・)


フェルナンドが出て行った後、王妃アーリアは薄暗い部屋の中を見回す。

王宮の地下通路の端、階段の死角にあるその小部屋は、王妃アーリアでさえ今まで一度も立ち入った事のない所だった。

壁の書棚にはぎっしと異国の書物が並べられ、片隅にある小さな木の机の上には何十冊もの分厚いノートがうず高く積まれている。

その影には小さな端末機が置かれ、カタカタと何かのデータを打ち出していた。


(ここは、あの人の部屋・・・なの?

それとも・・・)


アーリアは、机の上のノートを一冊、手に取ってみる。 

それは、何度も何度も手に取ったように表紙の文字は掠れて見えず、四隅はめくれ上がっていた。


アーリアは、頁をゆっくりと捲ってみる。

そこには、フェルナンドの筆跡で何かの走り書きがびっしりと書き込まれていた。


(各国の経済の分析・・・、ラドニアの資源の可能性・・・、産業支援の仕組み・・・

経済政策の為の草案を、あの人はここで立てていたのかしら・・・)


アーリアは手前にある四足の椅子をそっと引き、そこへ腰掛けてみる。



――ギシ
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