Ⅹ(クロス)
「は、はい。 畏まりました。
して、その客人とは・・・」
女はその視線をナフサの後ろに移すなり、ハッとしてその口元に手をやる。
「もしや・・・」
「そうじゃ。16年前ここから姿を消した、ルシアの娘よ。」
「ではやはり・・・クロス様。
帰ってこられたのですね・・・」
女は感極まったようにその声を震わせる。
「あ、あの・・・私・・・」
リディアは戸惑いを隠せない。
「悪いがの・・・、時間が無いのじゃ。 話が済んだら、声をかける。
それまで、そっちの病人らを看てやってもらえるかの?」
「あ・・・、はい。 畏まりました。」
女は慌てて恭しく頭を下げると、ユウリ達を手招きする。
「こちらへどうぞ・・・」
「リディアはこっちじゃよ。」
ナフサの示す方向には、灰色の煉瓦を積み上げたような、細長い塔が聳え立っていた。