Ⅹ(クロス)
Ⅰ. クロスの定め
「あれが見えるかの? リディア。」
塔の最上階から見下ろす森は、まだ灰色に煙っている。
さわさわと息づいていた森が、今はまるで巨大な影のように音もなくそこに佇んでいる。
「森は・・・、死んでしまったのですか。」
リディアは唇を噛む。
「いや、カルマの森は死なぬ。
あの森は、人々の祈りで生かされておるからの。
だから、人々が祈る事を止めない限り、あの森は死なぬのじゃ。
そして永遠に、ジプサムを守り続けておるのじゃよ。」
「では、また息づき始めるのですか?」
リディアは、ナフサを見て訊ねる。
「すぐには無理じゃがの。 少しずつ・・・な・・・。」
ナフサは、ゆっくりとリディアに体を向ける。
「さて・・・。
もう話さねばならぬな。
何故、お前が此処へ来たのかを・・・。」