中毒な彼
窪田君の話しでその事を思い出した。

「・・・・当時のこと思い出した?」

呆然としている私に覗き込むように窪田君は言った。

「・・・・うん。」

「でも、大和は体育で右手を怪我したって言ってた。」

「それは、真実を隠すための嘘。」

「何で嘘って分かるんよ。」

私は大和が人を殴ったなんて信じたくなかった。

「実は・・・その現場を見とった奴がおってな。そいつによれば、それはそれは凄かったらしい。最初は相手も殴ったりしてたらしいねんけど全然当たらんくて、しかも大和の方が倍ぐらい強くてあっという間に動かんくなったらしい。んで、大和は動かんくなったそいつを見て笑っとったらしい。見てた奴も大和が出入口に近づくにつれて逃げようとしたらしいねんけど腰が抜けて動かれへんくなったらしくて、そいつを見つけた大和が楽しそうに笑いながら“この事喋っても良いけど、喋ったらどうなるかはお楽しみやで。”そう言って、去っていったらしい。」

「・・・・嘘や。絶対嘘!!大和がほんなことするわけない。大和が人を殴ってるとこなんか見たことない。」

「本間か嘘か、それを見たやつに聞いてみようや。」

窪田君のその提案に乗ろうか迷った。

だって、大和が人を殴ったことも信じられへんしその現場を見ていた人の話しでも窪田君から何らかの賄賂を受けとってて嘘の供述をしてるかもしれへん。

眉間にシワを寄せながら結論を考えていると、聞き覚えのある声がした。

「・・・・お前、何でここにいんねん。」

窪田君の驚いた声がして、聞き覚えのある声した方に目線を向けた。

「・・・・やっぱり、窪田に何か吹き込まれたな・・・。」

その声の主は、紛れも無く大和だった。

怒ったような顔をしている大和がこっちに向かって歩いてくる。

大和が近づくにつれて、窪田君の顔が少しずつ曇っていく・・・

「何で、ここにいるん?帰ったんじゃないの?」

近づいてくる大和に問い掛けた。

「俺も忘れもん。」

そう答えた大和の顔が何故かものすごく怒っているように見えた。

「じゃあ、俺帰るわ・・・・さっきの件、考えといて。」

そう言って、窪田君は逃げるように去っていった。
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