加納欄の昔 シリーズ22 シーズン3
加納欄の昔 シリーズ22 シーズン3
その人を見たのは、久しぶりだった。

「金沢北署の五島拓郎警部であります。下田将を護送いたしました。本日は、東京に1泊し、明日署へ戻る予定です」

その男は、課長に敬礼をすると、部屋から出て行って、南署の長い通路を歩いていた。

「大山先輩!昨日のお昼代!1000円!まだもらってないですよ!」

あたしは、いつも食い逃げされているお昼代を、今度こそは!と、必死に請求していた。

「硬いこと言ってんなよ。俺とお前の仲だろ?あんまり怒ってると、可愛くなくなるぞ」

「そ!それは、ヤですけど!!たまには、返してくださいよ!」

今のあたしは、大山先輩と、正真正銘の恋人どおしになったのだ。

なかなか、デートも出来ないけど、こんな会話さえも嬉しいのだ。

その時、男とすれ違ったのだ。

「加納?」

男に呼び止められて、振り向いた。

大山先輩も、立ち止まった。

あたしは、その男を見た。

「加納、だよなぁ!なんだよ、お前、ここにいるの?」

あたしの顔が、一瞬にして無表情になった。

あたしの態度の変化に、大山先輩が、反応した。

「おたく、どちらさん?」

「コイツ無愛想で大変でしょ〜」

「だから?」

大山先輩も、無愛想になった。

「……五島さん。お久しぶりです」

あたしは、名前を思い出し、五島さんに挨拶をした。

「知り合い?」

大山先輩の、仏頂面は、なおらなかった。

「金沢北署の五島巡査です」

あたしは、大山先輩に説明をした。

「金沢北署〜?お前、いろんなトコ行ってんなぁ」

大山先輩は、あたしが沖縄県で刑事をやっていたのも知っている。

あたしが、五島さんを紹介すると、五島さんは。

「加納〜。ちゃんと紹介してくれよ。俺、巡査じゃねぇだろ?警部になったろ?お前が、どこかへ移動になった前日にさ。相変わらずだな、お前。いまだに、テキトーに仕事してんのか?コイツ大変でしょ?俺の下に入ってた時も、気ぃ使ってやってんのに、笑いもしなけりゃ、返事もしなかった時もあったよなぁ。思い出すだけで、胃が痛くなるぜ」


………………。


あたしは、一言もしゃべらなかった。


< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop