追いかけて~恋の行方
麗のことだ、どうせ、家に逃げ帰ってんだろ。

と、軽い気持ちで麗の家の呼び鈴を押す。

「は~い、どちらさまですか?」

あっ、不味い、こりぁお袋さんだな。

「あの、高田と申します。麗さんの友人で、今日二時に待ち合わせしたんですけど、麗さんこられなくて、もしかして、まだご在宅ですか?」

なんか、微妙なセールスマントークが気になったが、緊張してるんだから仕方ない。

俺はできるだけ大人に振舞って、インターフォンに答えた。

「あら、ごめんなさい。もう三時よね。でも、麗、もう出かけましたよ、随分前に」

扉を開けて出てきたのは、麗によく似た、男前のスポーティーなお袋さん。
ショートカットにピッタリフィットのTシャツ、ジーンズ姿が若々しい。

「もしかして、麗の彼氏さん? 大学生?」

「いえ、城南高校の二年です」

「今時の高校生は、随分と大人っぽいのね」

上から下からじっくりと眺められ、そうすか、と俺は頭をポリポリと掻いて気まずさを誤魔化した。

「携帯で呼んでみたら?」

「あ、俺、携帯持ってないんで……」

「ま、今時珍しい。そ、じゃ、ちょっと待って」

と、お袋さんは、ジーンズのポケットからマイ携帯を取り出すと、手馴れた手つきでボタンを押した。

「あ、麗? あんた今どこ? え? あ、そう」

なにやら、二言三言、言葉を交わし、お袋さんは通話を切った。

「なんか、グズグズ言っててよくわかんなかった」

ごめんなさいね、と困ったように俺に謝られ、また今度誘ってやってね、とあっけなく帰された。

麗の家の前に立ち尽くし、それでも俺は、そっか、とは頷けない。

生憎と、このまま帰る訳にゃぁいかねぇんだ。

麗、お前、どこにいんだ?

とっさに俺の頭に浮かぶのは、あの川原。

麗にキスされた、あの土手だった。
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