My fair Lady~マイフェアレディ~
「ユウちゃん寝ちゃったの~?」
リリーさんのゆったりした声。そして階段を上がる二つの足音。
軽やかにトタトタと上がっているのはリリーさんだろう。そしてこのしっかりとした足取りで重みのあるこの音は。
間違いなく、彼だろう。
俺の緊張はピークになった。ブルリと体が震えた。
「ユウ…?」
そんな俺にカイトが首を傾げる。背中を撫でてくれる手にほんの少し安心した。
カチャリとドアが開く。
「ユウちゃーん?」
リリーさんが入って来て、すぐに横にズレると彼がスルリと入って来た。
いつもの真っ黒な格好で。
カイトが髪を撫でるようにして、俺に呼びかける。寝たふりなんてしてても仕方がない。
俺は身じろぐフリをしてもそもそと目を擦りながら起き上がった。
「ユウ」
彼の、低い声が聞こえた。顔が、上げられない。
彼はスタスタと俺の目の前に来て、片膝をついて俺の顔を両手で捕まえて無理矢理目を合わせさせられた。
俺は息を呑む思いだった。でも、必死で平気そうに見せて。
「パパン…」
と呟いた。
「来てもらえてよかったな~」
というカイトの軽い声にハッとしたように、冷静さを取り戻した。
彼の表情の無い顔をこれ以上を見ていたら、俺は直ぐにボロが出てしまうだろう。
俺は彼の手を振り解いて両手を突き出し、彼の首に手を回して抱きついた。