My fair Lady~マイフェアレディ~
俺ふと、一つだけ、探して無い場所を思い出した。

「……地下?」

俺はそろりと立ち上がり、キッチンに入った。


大きく深い金属の鍋が目に入った。
それ以外はいつも通り。
ふわりといい匂いがする。きっとこの鍋から匂っているのだろう。
俺は、何気なくその鍋に近づいた瞬間。何かに捕まった。


「にきゃあっ!!」


女の子みたいな高い声が響いた。
心臓がバカみたいに高鳴っている。俺の脇腹を掴んでいるのは…彼だった。

「早かったな。帰るの」

「……そう?」

彼が現れた方向は地下だった。
彼の顔を見ると、少し汗ばんでいるように見えた。

「パパン、なんか凄い汗だよ」

「ああ、ちょっとな…」

いつもより早口な彼。汗を掻いてるなんて今まで見たことなかったのに…。

彼はしゃがんで俺を捕まえている状態からスクッと立ち上がると「風呂に入ろう」と言って来た。

彼がニコリと笑うので、俺も曖昧に頷いた。
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