My fair Lady～マイフェアレディ～
街に着くと未だ息荒いランを預けて俺は走り出した。
街には来てはいけないという約束を破るのは二度目だ。

心臓がドクドクと高鳴っている。それは緊張と恐怖が混ざり合って鋭い棘がジクジクと食い込む様な痛みがあった。
吐き気は俺の脳内からの危険信号のように思えた。

俺は考えた末に、一番の有力な情報を手っ取り早く入手するには、やはりあそこしかないと思った。

俺が走って向った先。それは雰囲気のいいお店の酒屋。

「こんにちは！」

息荒く駆け込んだ子供の姿に店のママは驚いた顔の後にニッコリ笑った。

「こんにちは。坊や。」

お仕事中のリリーさんは、なんとも色っぽい艶のある声で俺を甘く「坊や」と呼ぶ。
彼とは違う甘さ。

「カイトなら今日は丁度オフよ」

ふふと可愛らしく笑ったリリーさんはカイトを呼んだ。
ユウという名前を聞くなり、ドタバタと乱暴に階段を下りる音が聞こえて来る。
リリーさんは顔を少し顰めて「まったく、」と呆れたように溜息を吐いた。
俺はそれに苦笑いを返して、カイトの元へ駆け寄った。

「ユウ！」

「カイト！！」

ガバリと抱き合ってぎゅう～っとハグを繰り返す。

「どした？またなんかあった？」

不安そうに尋ねて来たカイトに俺は首を振る。そして真剣な顔で彼と向き合った。

「実は…協力してほしい事があるんだ…」

静かな声で言う俺に、カイトは何か感じ取ったのか「俺の部屋へ行こうぜ」と俺の肩を抱いて二階へ通した。

リリーさんはお客とお喋りに夢中だった。
俺は会話が聞かれなかったことに少し安心していた。
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表紙・目次

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