My fair Lady～マイフェアレディ～

今日はやけに日が落ちるのが早いような気がした。
いつもより帰りが遅いせいだというのもあるが、やけに薄暗い。
要約家に着くと辺りは暗く、家から漏れる光が眩しかった。
俺が家の扉を手を掛けようとした時に真後ろからザッと地を踏む音が聞こえた。

「ユウ」

後ろを振り向くと。彼の腹があって、俺はゆっくり視線を上に向けた。

「パパン…」

ニヒルに笑う彼がいた。

「どうしたんだ。今日は随分遅かったじゃないか」

彼は俺の頬を撫でた。そして次に横の髪の間に指を絡める。
俺は彼のその顔から目が離せなかった。

酷く冷静で脳髄が疼くような錯覚が起こった。
ここ数日で、わかった事が余りに多く、彼という築き上げた存在が。


俺の信じた彼が。


まるで。


俺の想像上の人物のように思えてきた。


眼球にジワリと熱いものが込み上げる。
ツキンと淡くそれでいて鈍く痛む胸の奥。


今すぐ縋りついて『そんな貴方は嫌だ！』『貴方は偽者だ！』と叫んでその安心させられてきた逞しい胸を思い切り叩いてやりたい。
それはまるで、どこかの悲劇のヒロイン。


彼は固まってしまった俺を面白そうに見ていた。

「どうした？」

弾むような声色だ。


ここで、俺が甘えてしまえば。
何も知らない子供でいれば。

貴方はまた“あの時”のように優しく微笑んでくれますか？
俺の愛した貴方に…。


「さぁ、ユウ。体が冷える。飯はとっくに出来てるぞ。中に入ろう」

「……うん」


でも。
俺はもう、自分を偽れない。
子供のふりなんて出来ないよ。


知りたいんだ。


俺の父親を殺したのが、貴方なのか…。