My fair Lady~マイフェアレディ~
「お…じ……さ、…ん」

俺が途切れ途切れに言葉を繋いだ。


森で出会った…あの時の…?
俺の瞳に真新しい熱い涙がじんわりとあふれ出した。

もう、言葉すらまともに喋れないおじさんの変わり果てた姿を見て…ポロポロと溢れ出る。


彼はガッとおじさんを強く蹴り上げ、奥へとおいやる。ピクピクと震え痙攣するおじさんの身柄が酷く痛々しかった。



「止め…て…お願い…」


細々と出した声に彼は振り返って綺麗に笑った。
彼は壁に吊るしてあるノコギリをおもむろに掴んだ。俺に嫌な予感が過ぎる。

彼はおじさんの元へ行きガッと片足で押さえつける。「いっ…」とおじさんは小さな悲鳴を上げる。
抵抗力の無いおじさんは無意味に指を動かしているしかなかった。全体的に震えてるのは身体の異常なのか恐怖なのか…もう見分けもつかない。
…そんなおじさんの腕に彼は刃を突き立て…。

一気に引いた。

「ぎゃあああああああああ!!!!」

ブシュウワアアアア!!と音を立てて血が飛ぶ。彼は業とゆっくり引いたり押したりする。ブチブチと弾ける音。悲鳴。ガチと骨に当たる。バリバリと砕き割る。

耳を塞ぎたくなる色々な絶叫の中で、飛び散る鮮血は辺りを赤く汚していく。
ぐきょっとおかしな音がして、それまでガクガク動いていた腕が地に伏せた。彼は血まみれで俺の頬と胸にもビッと飛んだ血がついていた。

おじさんは、泡を吹いて、白目を向いて気絶していた。その舌は棺の中の人と同じように飛び出ていた。
両腕の無いその姿はまるで芋虫。

クスクスクスと静かな笑い声。彼の顔がぐんにゃり歪んで悪魔のように笑っていた。
真っ赤な…真っ赤な彼。


「さぁユウ」


振り向いて、ガッと俺の肩を掴んだ。手に着いた血が俺の服に染みを作っていく。

そして鼻と鼻がくっつく距離で目お覗き込まれる。

彼の顔についていた血がポタリと俺の膝に落ちた。




「次は、お前の番だ」



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