My fair Lady~マイフェアレディ~
俺の精神がピキンと音を立てて凍った。逃げ出したいけれど。
この状況でどうやって逃げ出せばいいのか…。


彼はノコギリではなく、今度は別のものを取り出した。
血だらけで持つところでさえヌルヌルのノコギリはカランッとおじさんの横に捨てられた。
彼は新しくもった道具を俺の目の前持ってきて見せつける。

「……これ…」

俺はそれを見て絶句した。とても見たことあるモノだ。俺も手にした事がある。
乗馬鞭だった。

彼はその鞭の先をペロリと舐める。唾液でテラテラと鞭は輝いた。鋭い輝きだ。
そして俺を見て彼は嬉しそうに語りだす。

「お前にはこれがいいと思ったんだ…。フフ、一本鞭よりはマシだろう?」

言い終わりと同時にヒュッという音が響いた。俺は彼の腕の動きと共に目を瞑ったがいつまで経っても痛みは無い。チラリと胸辺りを見れば、ひらりと服が裂けてめくれ下がっていた。ナイフで切られたような一筋の切れ目。

「大丈夫だ。俺は使い慣れてるからな…色んなもん試したいか…?」

ニヤニヤと笑う彼はとても楽しそうだ。見ようによっては無邪気に楽しんでいるように見える。
だが、明らかに歪んでいて。目だけで人を殺せそうな。そんな魔物を目の前にしている恐怖がそこにあった。


こんな彼は知らない。


知りたくもなかった…。
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