My fair Lady~マイフェアレディ~
ひゅっひゅっ喉が空気の擦れる音を鳴らす。ジクジクと痛み、本当に声が出せないんだと自覚した。
流しすぎて枯れたと思っていた。涙は次々に枕に染みを作っていく。


ただ、表情だけは変らない事がなんとなくわかった。
表情を変えるだけの気力もない。
ただ呆然と瞳を開いて塩水を流し続けていた。


ギッと音がして。静かにパタンという音が聞こえた。
俺はそれをどこか遠くで聞いていた。
カツン、カツンとゆっくり歩く音。手でカーテンをめくる。

「ユウ、起きたのか」

笑った彼が俺を見下ろしていた。


俺は不思議と恐怖を感じなかった。
同時に愛しさも。


俺の中で。彼と言う存在は一人の人間として出来上がっていた。
近い親愛なる存在ではない。


俺に食事を与え、服を与え、眠る場所を用意した人。


それだけ。



俺の心はどこか遠くへ行ってしまったようだ。

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