My fair Lady~マイフェアレディ~
俺がクマのぬいぐるみを抱えてキッチンのテーブルについていた時。
彼は酔っ払いのように玄関を開けた。


「くくく…ハハハハ……」


気が狂ったように笑っている。

フラフラと千鳥足でキッチンにやってきた彼を、俺は恐ろしくなってそのままその場で固まっていた。どっと壁にぶつかるようにして寄りかかる。

「あははは…ははは…ああ、ユウ。そんな所にいたのか…おいで。パパンのところにおいで…」

腕を広げる彼。俺が向う前に彼は俺を抱え込むように抱き締めた。
嫌だともがくが、彼は押さえ付けるかの様に濃厚なキスをした。

びっくりしてされるがままになっていたが、口に広がる味に彼を突き飛ばしてしまった。

口の中に広がったのは。血の味。


「パパン…酔ってるの…?」


俺が恐々と聞くと、彼は俺の手を乱暴に引いて俺を椅子から引きずり降ろした。

そして床の上で胡座を掻く彼に再び抱きこまれた。
熱い息が俺の肌をじんわりと濡らしていく。

彼は俺の唇を自分の唇で食む。ちゅっと吸い上げて、首を甘噛みする。
くすぐったくて身悶えるが、彼はその行為を身体全体にしていく。

「やだ…パパン…!」

「今日な…」

俺が叫ぶと彼は静かに言い始めた。嬉しそうに。

「仕事が、凄く上手くいったんだ。凄いだろう…もう終わる…終わるんだよ…ユウ」


彼はうっとりと微笑んだ。







気付いていなかった



彼がどんどん、狂っていっていたのを。



俺は気付いていなかった…。



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