My fair Lady~マイフェアレディ~
その腕は温かかった。
抱擁は安心できた。
その声は胸を弾ませた。


「俺……馬鹿じゃないの……」


彼の狂いを探していた。


幸せの思い出を忘れて俺は彼を疑っていた。



ユウは膝を抱えて蹲った。


その人は。

少年を拾って、寒がる子供にマフラーを与えた。
温かい食事と服とオモチャを与えた。


家と家族を与え、その腕で子供を抱いた。
子守唄を毎日歌って眠る子供の肩まで毛布を掻けて見守るようにして眠った。


色んな遊びを教えて、一緒に遊び、料理をした。



怪我をしたら手当てを、世の中を教え、そして。


溢れる愛を誰よりも注いでくれた。



「……最低だ…俺は最低……」


彼を大好きだと言った俺はどこに行ってしまったのだろう。
彼が大好きでいつでもどこでも抱きついていた自分はどこに行ってしまったの?


「彼を……疑い、追い詰めて……」


あんなに幸せだったのに。


「彼を壊したのは……この俺だ……!!」


幸せを崩壊させたのは彼じゃない。
全ての始まりは自分自身。


ユウは涙を拭って立ち上がった。



琥珀に輝くその瞳は月によって金色に強い光を放つ。


< 484 / 509 >

この作品をシェア

pagetop