My fair Lady~マイフェアレディ~
不釣合いな事に、その真っ黒な格好に大きなクマのぬいぐるみを抱き。
もう片方には黒い銃がそのぶらついた手に握られていた。
歌はまるで、空気のように周りに溶け込んでいた。
声がユウを包むようだった。
「……パパン……」
ユウは、ロードにゆっくりと近づいた。
ロードもその歩調を変える事なくユウに近づいた。
そして二人はたった一歩の距離で止まった。
「パパン……」
見上げるロードの顔は月の逆光で何も見えない。ユウはそれでもロードの顔を必死で見ようとしていた。
「……ユウ」
ロードは首を下げて、ユウを確認するとスッとクマを差し出した。
「ほら、これならいいだろ?ユウ、俺がネズミを取りに行ったから拗ねちまったんだろ?」
クマを差し出すその手をユウは掴んだ。
「違うよ。パパン」
「違う?」
ボトリとクマは地に落下した。それを目で追い、ユウは再び顔を上げた。
「じゃあ、何がいいんだ?何をお前に渡せば、お前は戻ってきてくれる?」
「何もいらない」
ビクリとロードは体を震わせた。顔が引きつる。
ガタガタと握る銃が震えた。
「ただ、俺は……」
そんなロードを見ながら、ユウは静かに言った。
「パパンが傍にいてくれればいいよ……」