<コラボ小説>偉大な緑の協力者~トリガーブラッド~
 その後アザムは、小さい声で自分の思いを語り始めた。

 「ボクは……引き取られた場所が製薬会社だって知ったとき、お医者さんになろうと思ったんだ」
 
 アザムの故郷やその周辺の国々は内戦が終らない。眼前で怪我をし苦しむ人々、消えゆく必要など無かった命達。

 それを、物心付いた時から日常の風景のように見てきたアザム。
 
 微笑んで頷くベリルだが、アザムの話は、苦しい心情が続いて話される。

「でも、実際は違ったんだ。ボクは利用されていただけだった……」
「そうだな……では、これはお前に与えられた神からの試練だとでも思えばいい。今お前は必死に“生きる事”それだけを考えるんだ」

 “神”という者を信じるか否かではなく、今は生きる事への執着がアザムの今後の一つの鍵となる。

 まず人間とはそういう生き物だということをベリルは理解していた。

「ははっ、おじさんは死なないのにね。おじさんにそう言われると、そう信じなければいけないと思えるのが不思議だよ」

 苦笑いを見せたアザムにベリルも苦笑いを見せた。

 
 沢山の犠牲を払って助かったベリル自身の命。
 
 償いになるかベリル本人にも分らないが、この傭兵という世界で生きることでベリルに助けられた命が沢山ある。

「確かに私は死なないからね……行ける場所まで行く事が仕事。見えない未来と限界との戦いになるだろうがな」

 そう言ってもう一口ブランデーを口に含み味わった。
< 92 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop