漆黒シンデレラ
俺は教室のトイレに行って——ポケットから環ちゃんの通っている高校のリボンタイを取り出した。
エンジ色の細いリボンタイ……うちはブレザーだが、環ちゃんはセーラー服。どんな制服を着ていても環ちゃんは環ちゃんだよ?
いくらあの制服が嫌いだからって、僕は環ちゃんが来ているから大好き。
(——病的だな、俺…)
正直、前回の習字でこのリボンタイを見つけた時はラッキーだって思ってしまったんだ。まるでストーカーみたいだと思ってしまっても、環ちゃんが身につけているものだと解ると興奮してしまう自分が居るんだ。
「——たま、きっ……ちゃん……」
いつ来るかも解らないトイレで緩く立ち上がった自身を慰めるという行為。環ちゃんを想像して罪悪感と背徳感を覚えてしまう。
だが……叶わない"恋"だからこそ、余計に思ってしまうんだ。切ないほどに見つめてしまう、想像してしまう——
(——あぁ、神サマ。俺は生まれ変わっても、きっと環ちゃんに巡り会うような気がするのです)
相反する存在だというのは解っている。解っているんだ。だけど、俺はどうも馬鹿だから——
どうしても環ちゃんが居なきゃ、生きていられないって思うんだ。環ちゃんが居なきゃ、俺が俺じゃなくなってしまうんだ。
(君が好きだよ、この言葉を伝えるだなんて俺は出来ない)
だからせめて、祈ることしかできないんだ。君が俺を覚えていてくれることを。ただ一つの思いを伝いたいけれど——
(環ちゃん…)
俺の目の前には何時だって、君しか居ないんだ。