漆黒シンデレラ
「私がオタクだからって誰かに迷惑をかけた?」
「つーか、相変わらずボロい家。地震が来たらすぐに崩れる感じ」
加賀美は環が住んでいる平屋を見ながら感心したように言う。純粋な感想なのが残酷なのだが。
「ウチが貧乏だからって加賀美君に迷惑かけた?」
「テメェがオタクだろうが貧乏で可哀想な奴だからって"誰か"には迷惑なんざ懸けてねぇよ?」
馬鹿にしたような眼と口調。そしてその視線に「言わなくても解るだろう?」という問いが含まれているような気がした。
「——私、はー君と習字以外で関わってない。必要以上に接触だってしてない、ていうかしたくないし——私がはー君のことを"好意の目"で見ていないの加賀美君だって知ってるでしょう」
嫉妬に狂っている「鬼」が心に棲んでいるのを知っているのはこの加賀美君ぐらいなのを私は知っている。この人は観察眼に優れ過ぎていて、心を見透かされるから気持ち悪い。
「知ってるさ。——お前だって俺のこと"嫌い"だろう?家の中に一歩も足を踏み入れさせてくれねぇもんな」
「それは家の中が汚いだけ」
「嘘こけ。置くものがないんだろう」
「何で知ってるの加賀美君」
暫く真剣に見つめ合ったのは良いが——互いに鳥肌が立ったので同時に目をそらした。
「……はぁ、これがはー君だったら完璧に追い返していたのに。お茶でも飲んでく?」
「いんや遠慮する。俺はこれからお前と違って忙しいんで帰る」
「左様ですか」
互いに冷たく見つめ、「それじゃあ」という言葉だけでこの事は終わった。
終わった——はずだったのだ。