漆黒シンデレラ
そんなこんなで私達はベンチに腰掛けてお弁当を食べていた。はー君はコンビニで買って来たおにぎりやサンドイッチ、私は晩ご飯の残り物などで作ったお弁当。
(——本当に天気が良いなぁ。)
はー君に誘われて外に出て来たのは、ちょっとだけ癪に触るけれど気分が良いから…。気にしないでおこう。
「環ちゃん、卵焼き貰っても良い?」
「——はいっ?」
「いや、だから卵焼き貰っても良い?とっても美味しそうだからさ」
いやいやいやいや——きっと幻聴かもしれない。こんな王子様が私みたいな地味のお弁当などを欲しがるわけない。
そう信じ込もうとしたけど——はー君は私の了承無しでその麗しい口の中に卵焼きを放り込んだのだ!
「ちょ、何してんのアンタァアアア??!!」
「うんうん…もぐっ…。俺、卵焼きは塩派だったけど、環ちゃんの卵焼きの砂糖味、とっても美味しいね!!お、俺…これから砂糖味にしてもらおうかな」
「う"っ…」
お願いだからそんな子犬みたいなキラキラとした瞳で私を見ないで欲しいな。
ていうか…アレだよ、はー君がキラキラし過ぎで直視できない!!
「…そ、それはどうも」
視線を前に移せば、元気に少年少女が走り回っていたり。犬の散歩をしている人やジョギングをしている人など——まるであそこだけ違う世界に見えた。
みんながみんなキラキラと輝いていて、私の瞳には堪えられるものではなかったのかもしれない。
後ろ向き、そう言われればそうかもしれない。疎外感などという烏滸がましいことは思わない、だけれど私の周りの世界は動いていて…私の過ごしている世界は悪い意味で時を止めてしまっている。
目に見えない重圧をかけられる。
(バーカ、悪口だっつうの)
瞼の裏に加賀美航のニヒルな笑いがこびり付く。