漆黒シンデレラ
それからというもの環ちゃんとはぼんやりと公園のベンチに座っているだけだった。
良いんだ。今だけは君だけを感じさせて——
そんなことを考えながら俺は環ちゃんの漆黒の髪を見つめるだけ。
(映し出される美しい世界が例え崩れようとも俺は君だけを思い続けるよ)
この思いが叶うことなんてない。
そう覚悟をしていても取り留めも無く溢れる感情を塞き止められないんだ。
「環ちゃん環ちゃん」
「なあに?」
彼女は目の前を走っている犬を見つめているだけ。
「——もうそろそろ帰ろうか」
「そうだね」
そう提案して環ちゃんが俺の顔を見ずに立ち上がって、俺の数歩先を歩くのだ。
そのゆらりと揺れる白い手を取ろうとすれども——罪悪感とよくわからない混濁したものに苛まれて俺の手は空を切る。
美しいけれども残酷な世界。
彼女が居て、俺のことを少しでも覚えていてくれたら良いのに。
そう願えど、
そう願えど、
世界は厳しいものばかりと彼女に突きつける。
いずれ死んでしまう僕等なのに。どうして神サマとやらは環ちゃんに酷いことばかりするの?
それは俺のことが嫌いなのか、彼女のことが嫌いなのか。
何せよ——移り行く世界は儚く残酷だ。