漆黒シンデレラ
師匠の怒声にこちらも一瞬冷静になる。
確かに師匠の言葉は正論だ。
だが、俺にはもう理性が残されていない。
「…葉澄、」
「…里奈、」
里奈が申し訳なさそうに隣にきた。
師匠に叱られた俺はもう帰れといわれてしまった。その帰り道に里奈が俺の元に歩いてきた。
「…何か知っているのかな里奈」
「ごめん。本当に何も知らないの私…。どうして環ちゃんが辞めたのか、私にもわからないの」
本当に知らない里奈は泣きそうな顔をして俺に謝った。
「…別に里奈が悪いわけじゃないだろうが」
「そ、そうだけど……。環ちゃんに連絡つかないし、」
里奈でもダメだったか…。
俺は一縷の望みをかけてみたが、やはりダメだった。
俺は一瞬、小堺家に乗り込もうと思うが…時間も時間なのでやめた。
「……俺はどうしたら良いんだよっ!」
「…葉澄、別に一生の別れっていうわけじゃないんだから…」
「……そうかもしれない!だがなっ…
――俺は環ちゃんがいなくちゃ、書道やっている意味なんてねぇんだよっ!!!!」
葉澄は言葉を吐き捨て、拳を強く作った。
瞳からは真剣さしか感じられなかった。二人の奇妙な繋がりをなんとなく察している里奈にとっては、あまり踏み込めない境界線だった。
「……俺は、俺は……環ちゃんが、居なきゃ……意味がないんだよ……」
例え、嫌われようとも。
例え、憎まれようとも。
――俺は君がいなきゃ、生きている意味なんてないんだ。
(……何が起こったんだ!)