漆黒シンデレラ
「葉澄、ご飯食べないの?」
「――いい、お腹空いていないから」
翌朝、葉澄は眠れなかった。食欲もなかった。
一晩中、環のことしか考えていなかった。
そのため、目の下の隈が酷いことになっていた。
「何辛気臭い顔してんだよ、飯食わないと倒れるぞ?」
葉澄の兄である葉介(ようすけ)がぶっきらぼうに言った。
しかし、葉澄の表情は変わらなかった。
「…どうしたんだ葉澄。部活もあるんだ、しっかり食え」
普段無口な父もあまりにも心酔しきった葉澄に口を開いたのだ。
「……それよりも今日は学校休んだらどう?病院に行く?」
「良い…。ただ、食欲ないだけだから、」
(……加賀美は知っているのであろうか、)
ぼんやりと浮かんだが、加賀美はあまり環のことを好きでないのを知っているためその問いを閉じ込めた。
……しかし、一体何の前振りもなく起こってしまった「事」。
一生の別れではないと里奈は言った。
それは理解している。
頭ではわかっているつもりだが、体が――わかってくれないんだ。
そんななか、木城家は顔を見合わせるしかできなかったのであった。