漆黒シンデレラ
「ぬわぁーに、不抜けた顔をしている葉澄」
「……調子が悪いんだ。悪いが、話かけるな加賀美」
加賀美はにんまり笑いながら、葉澄の席の前に座った。
「…いんや?俺には用があるんだよ、用が」
「――手短にしろ、本当に調子が悪いんだ」
「小堺環が日比野書道教室辞めたんだってな」
――ガタンっ!!
葉澄は思わず、椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「……テメェ、何で知っている」
「何怒ってるんだ?俺ぁ、木梨に聞いただけだ。何か問題でもあるのか?」
「……里奈が?」
「何か、逼迫した声で言ってたからな。何で俺に連絡するんだって話だし」
加賀美は気だるげに言うだけであった。そう、何もなかったかのように。
(何も無かったかのように?)
「……お前、馬鹿にしているのか。前々から環ちゃんのこと諦めろとか、どうとか…」
「何?そんなに怒ることなのか?」
葉澄も座り直してから、加賀美の瞳を睨みつけた。
毎日毎日、こいつは環ちゃんへの思いを否定するようなことばかりを言っていた。
俺の真意も知っているはずなのに、何故こうも飄々としているんだ。
「……俺の気持ちを知っての、言葉かよ」
「俺は一般論を述べているだけだ馬鹿。誰がどうみてもお前らは釣り合わねぇし、小堺環はテメェを憎んでいる。まずこの矢印方向で気づけよ、おかしいだろうが」
確かに矢印の方向は名前を変えれば、「両思い」だ。しかし、そのベクトルが違う。
意味が違うのだ。思いあってはいるが、とても綺麗なものではない。
しかし、俺は彼女が目の前にいることで成り立っている感情なのだ。