漆黒シンデレラ
「にしても"木城葉澄"って本当に何でも出来るんだねー。知ってる環ちゃん?この前、うちらが出した"秋水書道展"でも理事会賞にまで食い込んだらしいねー」
「——知ってるよ」
…"木城葉澄"が優秀、ってことぐらい…私は幼少期から知っている。だって——互いに知り合いなんだから。
「…さっさと部活の準備しよう。じゃないと先生に怒られるよ」
私がそう言えば、友人も「それもそうだね」と言いながら部活の準備を始めた。
遠くを思わず見つめてみても、何も変わらないのに…どうしてだかこの空の青さが憎たらしい。天気が良いのに、いつも良い気分にはならない。
書道室に香る墨の匂いだけが私を落ち着かせてくれるような気がした。
巷で噂の「木城葉澄」と——私「小堺環」は残念ながら"書道"というのもで繋がっている。それも現在進行形でだ。
私はどうしてだが、それをすんなりと受け入れられない。"彼"を受け入れてしまえば、今までの自分を否定することになるから。
(——…考えたら、お腹空いちゃった)
環は恐ろしいぐらいの真っ黒の髪の毛と瞳を持つ少女。それだけを書いてしまえば神秘的な少女のようにとれるが実際は野暮ったいだけである。
細いつり目のせいで余計に顔の印象を悪くする。…通っている学校も公立の中の下の高校。取り柄という取り柄も書道だけしかない。
だが、そんな書道すら——何でも出来る優秀な"はー君"に負けてしまう。
(…いや、負けだなんて烏滸がましい。足下にも及ばない)
どうしてだが、はー君の事を考えるとここまで暗黒のように心が気持ちわくなるんだろう。普段はこんなにネガティブじゃないのに、暗くないのに、哀しくないのに——
(貴方の事を考えると、こうなるのよ?)