漆黒シンデレラ
あれから若干家族に心配されたので、俺はきちんと食事をしてから外に出た。
外は憎いぐらいの青空が広がっており、良好の天気であった。
しかし、文学的にはこういうような天気でこの季節ならハッピーエンドになるはずだ。
(…芥川龍之介を読んでみろ、一発で冒頭から結末がわかるっつうの…)
一体……環ちゃんに何があったんだろうか。
何故、踏み込めないと決め付けているくせに…
俺は踏み込んでしまう。無意識にも、俺は環ちゃんに踏み込もうとしている。
(……加賀美に言わせれば、馬鹿だろうか)
目の端々に生い茂る木々が流れ、緑の風が流れ――
「あっ、ハスミくんだぁ~!」
(呼ぶな呼ぶな呼ぶな呼ぶな…)
あの娘以外に呼ばれたくない、その名を。
瞳に飛び込んできたのは、以前合コンという名の飲み会(俺は断じて合コンとは認めない)に居た女の子だった。
何故、朝から――俺は想ってもいない女の子に会わなければいけないのか。
軽く悪態をついた瞬間、香水の臭いを纏わせた女の子がこちらに近寄ってきた。
(…香水を纏うって…なんだか陳腐だな)
そういえば、この子は環ちゃんと同じ高校に通う同級生だったよな。
「……あぁ、久しぶり。ヤザワさん」
「ふふっ、覚えてくれて嬉しい~。ていうか、こんな道端で会うなんて運命~?」
俺は環ちゃんとの運命しか認めません。