漆黒シンデレラ
「俺は…テメェみたいに暇じゃねぇんだ。退けよ、俺はその"入れ物"に用があるんだ」
"入れ物"
その言葉に、一体誰が絶望するのだろうか。確かにこの家には、家族がいたのだ。
何故、その家族の口から「入れ物」という言葉が飛び出して来たのか。
葉澄は半ば絶望した。
もう、その言葉の通り望みが絶たれたのだ。
(——俺は一体、誰の言葉を信じれば良いのだろうか)
——可哀相よね、遠くに引っ越したんだって。
——あの女は滅びるだけだ。
——この入れ物に用があるんだよ。
元々世界に色なんてなかった。ただのモノクロだけが俺の世界だった。
だけれど、その中に、俺の世界にただ一際黒く、色濃く存在していたのは環ちゃんだけだった。
葉澄は唇を噛み締めて、流に掴みかかった。
「何すんだよっ!!!」
「お願いだ!環ちゃんに会わせてくれ!!」
「お、おい!!」
「環ちゃんに……環ちゃんに!!」
流の背中に一筋の汗が流れた。この男は、本気の目をしている。