漆黒シンデレラ
07.黄金の煌き
――出来の悪い弟子で申し訳ございませんでした。
呪いのようにこびり付く言葉。ずっと、あのか細い声が離れない。
日比野書道教室の長、春流(しゅんりゅう)は苦しかった。気に入らなかったわけではない、嫌いでもなかった。
ただ、私の教育方針が間違っていたのか。あそこまで私はあの娘を追い詰めていたのか。
春流は自宅の縁側に座りながら、空を見上げた。澄み渡った空なのに、どうしてあの娘は報われないのだろう。
あの娘の努力は私が一番、痛いほどわかっていた。天才型の葉澄に負けぬよう必死に頑張っていた。
(……筆を、持たぬようになった)
私はこの目で見てしまった。環が寺に持っていた全ての筆を奉納していたのを。
もう…その背中が痛々しすぎて声すらかけられなかった。いつもの怒鳴り声も出ない。
『…私、働こうと考えています』
『高校はどうするんじゃ。…それに、当てはあるのか』
『当てならあります。……生活すら、怪しいんですウチ』
あの娘はただ無邪気に、……笑うだけだった。ただ無邪気に。
『師匠のお陰で楽しい10年でした!私、ここの人たちに会えてよかったです!』
……嘘を言うな、馬鹿娘。お前は嘘をつくと、必ず髪の毛を弄くる。
『また、時間があれば連絡しますね!』
……もう、連絡する気はないだろう。
もう……瞳が冷たく、すべてを諦めていたのだから。