時空少女
「………え」
「最近ひょこっと現れたお前に、何も知らないお前に、
俺の何が分かるんだっ!
"焔天"であることの苦痛が、言っても伝わらない悔しさが、お前は知らねーだろっ!?!?」
燿十は、沙柚を思いっきり睨んだ。
「そっそれはっ……」
「何も知らないくせに、偉そうに言ってんじゃねーよ。」
沙柚は何も言えなかった。燿十の言ってることは正しい。自分は何もしらない。でも、伝えたい気持ちがあった。
「………たしかに何も知らないよ。だっていきなり"この世界"に飛ばされたんだから。」
「はっ、開き直るのかよっ。」
「ちがう!そんな私でも分かったことがある!なのに、燿十は分かってない!」
「んなことあるわけねーだろ。」
彼はいまだに冷たい瞳をしたまま沙柚を見続ける。
「分かってないよ!みんながどれだけ燿十に感謝しているのか。燿十をどれだけ好いているか。燿十の気持ちは伝わってるんだよ?」
「なにが伝わっているっていうんだよ!」
「―――…妖たち、みんな私に口をそろえて言ったんだよ、"人は嫌いじゃない"って。
それってさ、燿十の人も妖も大事にしたいっていう気持ちが伝わってるからじゃないの?
人にだって伝わるよ。妖たちには、しっかり伝わったんだから。」
沙柚がふわり、と優しく笑った。
「―っ、それは、俺が焔天だから、」
「"燿十さんに着いて行きたい"んだって、みんな。"焔天様に着いて行く"なんて言わなかった。」
「―――っ、」
「みんな"燿十"がいいんだよ。」
「…………さゆっ」
「わっ…!」
沙柚はギュッと燿十に抱きしめられた。少し恥ずかしい気持ちもしたが、彼も悩んでいるのだろう。
"焔天"の名を背負い、崩壊を知らされて、あらがうにも抗えない。そんな中でも、"人と妖"の間で板挟みにされて……………
もどかしくて、つらくて、悲しくて、言いたくて、頼れなくて――――――――
キュッと沙柚は彼の服を握った。