時空少女
空を飛ぶのは、かなり気持ちよく沙柚は、はまってしまった。
「ひゃー!きもちいーっ!」
夏の暑さにより、地上では生暖かい風しか感じないが、空では少し冷たく感じる。風を切るような感覚も最初は、不安だったが今では楽しみに変わっている。
上からみる景色は、どれも"あちらの世界"で見ることが出来なかったものばかり。
生い茂っている森や、畑をしている人々。此方には、景色を邪魔するような、高層ビルなどがない。
全てが生きている。
なんだか、失ってしまったものを見れたような気がして嬉しくなった。
「そんなに気に入ったか?」
燿十が少し笑いながら沙柚に尋ねる。それは、少し驚きも含まれているようにも見える。
「むこうの世界で、見れなかったんだ。こんな景色―――――――すごい綺麗。」
「綺麗、か。お前には"全て"が綺麗に見えるんだな。」
沙柚は燿十の瞳に、暗い色が差したのを見た。
―――また、だ。
燿十は時々、悲しそうなつらそうな瞳をする。沙柚には理由が分からない。でも今は、知るタイミングではない。と本能で感じているのか聞こうとは思わなかった。
「燿十さ〜ん。着きまっせ〜。」
「、わかった。」
すぐに元に戻り前を見据える彼、その背中にいったいどれくらい背負い抱え込んでいるのか分からない。
――ただ、その負担を少し分けてくれれば…打ち明けてくれれば………
そこまで考え、沙柚は頭を横に振る。そのさきにある、気持ちに辿り着いてしまいそうで…なにも考えないように、ぐっと目を伏せた。