(短編)フォンダンショコラ
わずかに震える手で、会計を終えた。よほど青白い顔でもしているのか、店員さんは不審な目をあたしに向けた。

袋に入れられたラッピング用品を受け取って、そのまま店を出た。


最後に、


隼人、幸せでいてね


そう、強く強く願って。


店を出て、いつもだったら歩かないエスカレーターを、駆け降りた。

とにかく早く駅に向かおう。

離れなきゃ。振り返らないように。隼人に、会いたくなってしまわないように。


それだけを強く考えていた。


だから、気づかなかったんだ。



足音が、だんだんとこっちに近づいてきてること。




駅に繋がる通用口がある階で、あたしはエスカレーターを降りた。

そのまま玄関口へ向かおうとした、その時。



グイッ!



誰かに強い力で、引き止められた。

頭の中が考え事でいっぱいだったこと、そして焦ってたこと、泣きそうだったこと、

そのせいで全然誰かに追い掛けられてたことに気がつかなかったあたしは、相当驚いて、腕を掴んだ相手に目を向けた。



そしてそのまま、声も出せずに固まってしまった。




だって、そんな・・・、まさか・・・。




「彩美・・・。」

あたしの腕を掴んだまま、隼人は切ない表情で、あたしの名前を呼んだ。

焦がれ続けた人が、目の前にいる。なんら変わらない姿で、あたしを見つめてる。


どうして・・・?


いざ真正面に向き合ってみたら、何も言葉が出てこなかった。


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