(短編)フォンダンショコラ
過去と現在
しばらくして、隼人が口を開いた。

「・・・久しぶり、だな。」

隼人も緊張しているのか、その声色は、あたしの顔色を伺っているように思えた。

「・・・うん。」

何も言わないのも失礼だと思って、ようやく出した声は、見事に震えていた。

緊張のあまり、変な汗が滲み出ていた。身体も震えている。

喜びなのか、それとも不安からか。

あたしは少しでも震えが止まるように、手をギュッと握りしめた。


「さっき、雑貨屋のレジんとこで、お前見かけて・・・。まさかと思ったけど、気が付いたら、追い掛けてた。」

どこか遠慮がちに、隼人は淡々と経緯を話す。そして、こう続けた。

「--元気だったか?」


そう聞かれるのは、出来れば避けたかった。隼人を失った4年間、あたしはどちらかといえば複雑な環境にあった。でもそれを、今隼人に話せるわけもない。

「・・・うん。」

結局、曖昧に頷くしかできなかった。

「・・・そうか。」

隼人は、少し黙ってから、そう呟いた。もしかしたら、あたしの嘘に気が付いたのかもしれない。でも干渉して来ないのは、もう二人の間には繋がりがない、という証拠なのだろう。


「大学は?」


出来ればこの質問も、避けたかった。特に隼人には、絶対に聞かれたくない質問だった。


「・・・やめた。」


なんとなく、嘘はつけなかった。隼人には、嘘をつきたくなかった。

どんな反応が返ってくるのか怖かった。もしかしたら、呆れられるかもしれない。

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