(短編)フォンダンショコラ
戻れない現在(いま)
「あたし・・・もう隼人といる自信ない。別れたい。」
あの日、電話で告げた最初の言葉を思い出す。
いつから隼人への気持ちが、不安に負けてしまっていたのか、もう思い出せないけど、とにかくあの時のあたしは自分を守ることで必死だった。
誰かを好きになるのも、誰かに好きになってもらうのも初めてで、何もかもが喜びであると同時に、恐怖でもあった。
これ以上、誰かを好きになってしまったら、「あたし」が無くなってしまうかもしれない。
いつか、隼人に重いって思われるかもしれない。
離れたら、呆気なく気持ちが途切れちゃうかもしれない。
あたしはそんな不安ばかりで、いつだって自分のことばかりで。
隼人はいつだって、あたしを想ってくれていた。不安になる暇なんかないくらい。
でも逆に、それが怖かったんだ。
あたしは同じように、隼人に返せているのかわからなくて。
あたしは隼人を、幸せにしてあげられてるのかわからなくて。
自分の未来。隼人の未来。あたしたちの未来。
考えれば考えるほど、あの時のあたしには、二人が一緒に笑っていられる未来は、見えなかったんだ。
「・・・隼人といるの、疲れちゃった。」
「・・・俺のこと、嫌いだってこと?」
「・・・そうじゃないけど・・・、離れたい。」
もどかしさと、情けなさと、苦しさ悲しさ、そして愛しさが混ざって、涙が溢れて、あたしは声を震わせながら、そう告げた。
何分、隼人は黙っていただろう。
「・・・わかった、別れよう。」
それが、彼の出した答えだった。