(短編)フォンダンショコラ
かなりビターに作られたショコラの苦さと、バニラアイスの自然な甘さがあたしの口の中で調和する。

「・・・美味しいや。」

あたしがかつて作ったものとは、味も出来栄えも全然違う。プロの作ったものなのだから、そんなこと当たり前だけど、何だかほろ苦い気持ちになった。


「なんかあったか?」


するといきなり、店長がそんなことを聞いてきた。
あたしが目を向けると、店長はふっと笑った。

「最近ずーっと暗い顔してんぞ。」

「あたし・・・そんなに顔に出てますか?」

「まぁ上司の俺がわかるくらいには。」

「・・・すいません・・・。」

接客業をやっている身にも関わらず、表情に出てしまっていたなんて失態だ。

情けなくて、俯いた。


「謝ることはない。あくまでも、俺はわかったってだけ。客にはばれてないし。誰にでもそうゆう時期はある。」

そう言うと、店長はビールをまたグビッと口に運んだ。

「人生の先輩である俺が聞いてやってもいいよ?話したくないようなことでも、あえて誰かに話してみると、意外に答えが見つかったりする。」

生ハムを口に運びながら、

「これ、俺の体験談ね。」

店長はニッと笑った。


そんな店長を見ていたら、何だか話してみたい、という気になって、あたしは初めて、隼人とのことを人に話した。



「なーるほどねぇ・・・。」

順序立てて話すのがうまくないあたしの話を、店長はただ黙ってじっと聞いてくれた。

話し終わった後の彼の第一声は、それだった。


< 23 / 52 >

この作品をシェア

pagetop