(短編)フォンダンショコラ
3月には、隼人も受験が終わる。そしたら、会える。

彼氏が出来てから初めて迎えたバレンタイン。それを大切にしたかった。

どうせなら、難しいものにしよう。

そう思って選んだのが、フォンダンショコラだった。



結局会えたのは、バレンタインから1ヶ月も過ぎた頃。
恋人と言っても、今まではお互い「浪人生」とゆう身分もあったせいか、友達気分が抜けなかったけれど、それを取っ払って会うのは初めてで、妙な緊張感があたしたちを襲っていた。


いつ渡せばいいのかわからなくて、結局デートの最初に渡した。小さな手紙と、張り切ったラッピング。そこに包まれた、一番上手に出来た、フォンダンショコラ。


「すき」という気持ちを、うまく言うことができなかったから、そこにあたしの気持ちを精一杯押し込めた。


伝わればいい、と強く願った。

「ありがとう。帰ってから食うのでもいい?」

照れたように笑う彼が、素直にすきだと思った。


デートが終わって、帰宅した後30分もしないうちに届いたメール。


「めちゃくちゃ美味しかった!彩美すごいな!また作ってな。」


まさかこんなに早く感想が来るとは思っていなかった。メールの文面から伝わってくる、確かな温もり。彼の喜び用が目に浮かんで、あたしまで幸せな気持ちになった。


「ホワイトデー、遅れちゃうけど、必ず返すから。」


彼はメールの最後にそう付け足した。



そのすぐ後、あたしたちは合格発表を迎えた。

あたしは見事合格。

だけど、彼は全落ちだった。



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