(短編)フォンダンショコラ
「隼人、知りたいって・・言ったよね。私が、隼人と別れた理由・・。」

「・・・ああ。」

今にして思えば、何とも子供っぽい理由だった。何も知らなかったから、とはいえ、私はあまりに幼すぎた。

「私・・、不安だったの。」

「不安?」

隼人に聞き返されたそれに、頷いて返した。

「隼人・・、大学に落ちたでしょう?」

「ああ・・。」

「私、離れたら・・、二人の距離も離れちゃうんじゃないかって気がして・・。
私なんて、普通の女の子だし、かわいくもないし、それに比べて、隼人はかっこいいし、私より経験も豊富で・・、だから離れたら、心変わりされちゃうかもとか、色々考えたら、不安で押し潰されそうで・・。」

隼人は、ただ黙って、私を見つめていた。それは怖いくらい、静かに、真剣に。


「隼人がいなきゃ、ダメな女には、なりたくなかったの。隼人に何でもかんでも頼ったりするのは嫌だった。だから・・離れなくちゃって思ったの。あの時は、それしか頭になかった。」

あの時の焦燥感と不安感が、一気に胸に押し寄せてくる。
泣くことだけはないように、また手を強く握り直した。

「・・馬鹿で、ごめんね。幼くって、ごめんね・・。いっぱい、傷つけちゃって、ごめんね。」

隼人の顔は、見れなかった。
ただ、言いようのない辛さが私の胸を締め付けていた。


「でも、私・・、隼人のこと、嫌いになったこと、ないの。ずっと・・・、忘れられなくて・・・。隼人のこと、ずっと・・想ってた。」

長い間、胸に溜め込んでいたそれを、とうとう言った。酷く、スッキリしたような気分になった。


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