(短編)フォンダンショコラ
私は、震える手で、カバンを開けた。昨日、一生懸命作ったフォンダンショコラが、姿を覗かせる。
料理長も、店長も、がんばれと言ってくれた。

私は、ちゃんと、隼人にこれを渡さなくちゃいけない。

大切に、大切に、その包みを、手で取った。

「それ・・・。」

黙って私の動向を伺っていた隼人が、私の手にあるものを見つけて、目を開く。

「あの時、一方的に離れたこと、許してほしい、なんて思ってない。でも・・、ずっと、忘れたことなかった。これだけは・・・、信じて。」

ダメだ、どうしても、涙が出る。

「ちゃんと・・渡したかった。・・・約束したから。来年は、この日に、あげるって・・・。」

溢れる涙を、手で拭う。

隼人と出会えたのが運命なら、再会出来たのが奇跡なら、私の気持ちが本物なら、

届いてほしい。


あの頃よりも。ずっとずっと。

「ずっと・・すきでした。ずっと・・・、隼人の隣に・・戻りたかっ」

一瞬の出来事だった。

手を引かれたかと思ったら、隼人の腕の中に、強く強く抱き込まれていた。

それは、あまりに久しぶりで、でもあの頃よりずっと温かくて、ずっと幸せで、私は静かに涙を溢れさせた。


「ずっと・・・後悔してた。」

耳のすぐ側で、掠れた声がした。隼人も・・、泣いてるの・・・?


「お前を手放したこと・・。どこまでも、追いかけりゃ良かったのにって。縛り付けてでも、側に置いときゃ良かったって。でも・・、出来なかった。
お前に、嫌われたくなかったから。お前を自由にしてやることしか、あの時の俺には、出来なかったんだ。」

隼人・・・。そんなふうに、考えてくれてたんだね・・。


「苦しめて、ごめんね・・。」

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