(短編)フォンダンショコラ
「今だから言うけどさ、俺、一目惚れだったんだよ。」

「え?」

隼人は、私から腕を解いて、仰向けに寝転がった。
どこか遠くを見つめるように、出会った日のことを話し出す。













「ねえ。」

私はあの日、自習室を出て帰り仕度をしてる最中だった。ノートをカバンにしまっていると、後ろから声をかけられた。

反射的に振り向いた。そして驚いた。

顔も名前もわからない男の人が、そこに立っていたから。

知り合いではないし、人違いじゃないかと最初は思った。でも相手は、立て続けにこう言ったのだ。

「桜の友達でしょ?」

桜は、私の友達の名前だった。私は不審な目を向けながらも、怖ず怖ずと頷く。

「俺、桜の友達。隼人っていうんだ。あのさ、漢文のノート貸してくれない?」

すると相手は、唐突にこんなことを言い出した。
私からしてみれば初対面で、しかも帰ろうと思っている時に、こんなことを言われて、不思議以外の何物でもなかった。

とゆうか、桜の友達なら、桜に借りればいいのに。と思った。すると相手はそんな私の気持ちを読んだのか、

「桜、授業中寝てて書いてないとこも多くてさ。その点、あんたいつも真面目に授業受けてるだろ?コピー取ったらすぐ返すからさ。」

なんで私を知ってるのか、それはよくわからなかったけれど、すぐ返してもらえるなら、と私はノートを貸した。

「さんきゅ!」

彼は屈託なく笑って、それからよく、私に話しかけるようになった。


それが、始まり。



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