(短編)フォンダンショコラ
ま、まさか自分の上司に彼氏を紹介することになるなんて・・・。

嫌ではないけど、何だか気まずい。

「俺ほど部下思いなやついねえだろ。敬えよ~。」

店長は得意げに笑った。
・・確かに、こんなに部下の恋愛をお膳立てしてくれる上司は、なかなかいないだろう。

「彼氏との約束、また一つ叶ったじゃん。」

「店長・・。」

店長は、前に私が話したことを、覚えていてくれたんだ。

「ありがとうございます。」

私は心からのお礼を口にした。

「邪魔はしねえから、安心しろ。」


店長はそう言ってニヤリと笑うと、またホールへと出て行った。











「お、お待たせ。」

「彩美、お疲れ様。」

若干緊張の面持ちで、個室へと入った。隼人は私に気づくと、まず労いの言葉をかけてくれた。
自分のお店に、客として入るのは、何だか不思議な感じだった。

「ではお料理の方、用意して参ります。」

わざわざ店長が、エスコートしてくれた。

ああ、すごく恥ずかしい。


でも窓際から見える景色は、本当に綺麗だった。
こんな機会でもなきゃ、ここからの景色を客として見ることは出来なかっただろう。


「そのワンピース、まだ持ってたんだな。」

乾杯をした後で、隼人が懐かしそうに声を上げた。
黒のシンプルなワンピース。胸元にスパンコールが輝いて、丈も形もちょうどよく、気に入っていた。

・・着たのは、実に4年ぶりだけれど。

「初デート、思い出すな。」

隼人は、そう続けた。
そう、このワンピースは、まだ付き合う前、隼人から初デートに誘われて、わざわざデパートに行って、当時の自分としては、だいぶ背伸びして買ったものだった。

久しぶりに着てみると、今の方がしっくり来る。


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