(短編)フォンダンショコラ
「左手、出して。」

隼人の優しい声に導かれるように、若干緊張で震える左手を、差し出した。

「これ、嵌めていい?そしたらもう、彩美は俺のものだけど、いい?」

ノーなんて、言えるはずがない。言いたくもない。

私が望むものをくれるのは、この人だけ。
私を満たしてくれるのは、この人だけ。


「はい・・。お願いします。」

次から次へと滑り落ちる涙のせいで震える声で、私はそう答えた。

左手の薬指に、スッとそれが滑っていく。

まるで、奇跡を見ているようだった。

一生、忘れたくない。そう思った。


「彩美も、俺に嵌めて。」


隼人の頼みに、私は涙を拭って、自分のよりも大きい輪を取り出した。

「手・・、出して。」

声が、震える。

隼人は、ニコニコと笑いながら、左手を差し出す。

ごつごつした手が、愛しい。


私は自分が持っているそれを、ゆっくりと、彼の薬指に嵌めた。


そのまま、手を包みこまれる。


「誕生日に、ペアリングって言ってたのにな・・。せっかちでごめんな。」

私は声にならず、ブンブンと首を横に振った。

「遠回りした分・・、そういうのすっ飛ばしちゃうけど、今、俺最高に嬉しい。」

「・・・私も。」

嬉しすぎて、死んじゃいそうだよ。

「ずーっと、大切にする。約束する。彩美に出会えて、俺は、幸せ。」

「・・・私も、幸せ!」

涙でくしゃくしゃになった顔で、私は笑った。



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