(短編)フォンダンショコラ
バレンタインまで2週間と迫ったある日、あたしはとある大型ショッピングモールまで、友チョコの材料の調達に来ていた。

結局あれから家に帰って、ネットで色々と検索した結果、トリュフとブラウニーにしようと決めた。


トリュフは仕事仲間に。ブラウニーはなかなか会えない友達に。


あげる人数分の材料を書き込んだメモを見ながら、あたしはひとつひとつカゴへと材料を入れていく。結構な量になりそうだ。


でも、料理が好きなあたしにとって、やっぱりこういう時間は楽しい。

出来上がってみんなに食べてもらった時の反応が、何よりの楽しみだ。


会計したら、やっぱり思った通り結構な金額になった。

まぁ仕方ない。


ラッピング用品も買おうと、あたしはそれらを安く手に入れられる店へと向かった。かなり広い店なのに、ラッピングコーナーの前だけ混んでいる。

時期も時期だし、まぁわからなくもない。


ラッピングコーナーには、やっぱり可愛いのがいっぱいあって、どれを買おうか迷ってしまう。

無難にハートがあしらわれた袋にするか、それとも色んなロゴがあしらわれた袋にするか・・・。

うーん、迷うなぁ・・・。



その時、甲高い女の子の声がこっちに近づいてくるのが聞こえた。

「あ、あったあった!可愛いのいっぱいあるー!」

チラッと目を向けると、そこにはあたしと同い年くらいの女の子。後ろにいるのは彼氏かもしれない。女の子の背が高いせいか、顔は見えないけれど、幸せそうな笑顔で彼の手を引っ張っている。

こういう場所でカップルに遭遇するのは、あたしはなんだかいたたまれなくて好きじゃない。自分にそういう相手がいないせいってのもあるかもしれないけど。


早く決めて、離れよう。


そう思って、あたしはとっさにロゴプリントの袋を取った。

レジに向かおう。そう思って、ラッピングコーナーに背を向けた。


「ね、隼人どれがいい?」


さっきの女の子の声が、すぐ近くで聞こえた。

ドクン、と心臓が波打ったのが聞こえた。

声に、じゃない。名前だ。


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