(短編)フォンダンショコラ
ーーーああ、すきだな。

一瞬で、戻ってしまう。どうしようもなく、あの時閉じ込めた気持ちが、溢れ出す。


「えー・・・。隼人が決めたのがよかったのになぁ。」


けれど、隼人の隣にはもう別のコがいるんだ。

あの日、選んだのはあたしなんだ。隼人との未来を拒んだのは、あたしなんだから。



泣くな。泣くな。泣くな。



絶対振り返らない。何もなかったように、レジに向かって買って、早く帰ろう。

そして何もなかったように、トリュフとブラウニー作るんだ。


そういう予定だったんだから。


「ごめん、でもホント、俺こうゆうの選ぶの苦手だから。」

「優柔不断なの?」

「かもな。」

「え、そうなんだっ。そんなふうに見えない。」


あたしは早歩きでそこから立ち去った。どれだけ離れても、二人の声がまだ聞こえてくる気がした。ラッピングコーナーから、レジはかなり離れている。けれどレジから見えない位置じゃない。
あたしは目は悪いけど、わずかに視界の端にぼんやりとした二人の姿がうつる。見ないようにしながらも、どうしても気になってしまう。


とにかく、気付かれる前に、早く出なきゃ。


これ以上、二人の声も姿も、聞きたくないし、見たくない。



あたしはやっぱり馬鹿だ。いつかこんな未来が来ることをわかってたはずなのに。受け入れられるほど、強くないって、知ってたのに。

なのに彼から離れた。


自業自得なんだ。きっと神様が教えてくれたんだ。


諦めろ、って。


いつか再会できたら、あわよくば・・・ってどこかで思ってたあたしの目を、覚まさせてくれたんだ。



< 9 / 52 >

この作品をシェア

pagetop