悲愴と憎悪の人喰い屋敷
「圭くん!大丈夫!?」

スカートを翻して駆けて来たのは、三浦と同年代の高野 祐子。
樋口に言われてタオルを片手にやってきたようだ。
彼女は態度や言動から三浦に恋心を抱いているのは間違いない。
サークルの誰もが理解しているのだが、三浦は全く気が付いていないらしい。
何故なら以前、部室に入ろうとした俺は三浦が鈍感だという決定的な会話を聞いた事がある。
確か、こんな会話だ。


『圭くん…私の事、好き?』

誰も居ない部室で告白のチャンスだと思ったのだろう。
高野さんは緊張した声だった。
そんな高野さんに三浦は明るく答える。

『うん、高野さんも北川先輩も部員の皆さんも好きですよ』

こんな返答をする三浦を、鈍感と言わず何と呼ぶ?
というかだ…何故に俺だけ名指し何だよ。
そう思ったのは俺だけではなかったようで、その後から高野さんは俺を恋敵と断定し何かと突っ掛かる様になった。

「ちょっと!北川先輩!圭くんが風邪をひいたら先輩のせいですからね!」

案の定、高野さんは三浦の頭を拭きながら俺に怒鳴る。

「えっと…」

事情を説明しようと言葉を選んでいると、遠くから再び足音が聞こえた。

「おい!胱矢のせいにするなよっ!」

言葉が聞こえていたのか、戻って来た樋口は高野さんに指を差して言う。

「樋口先輩には関係ないでしょ!」

高野さんは負けずに言い返し、腰に手を当てた。
俺はそんな二人を見て、心底思う。
人間関係って難しいよな…。
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