悲愴と憎悪の人喰い屋敷
心霊現象かと生唾を飲むと、俺の耳に微かに声が聞こえてきた。

『すみませ〜ん!誰か居ませんか〜?』

明らかに恨めしい霊の声ではなく、生きている人間の声。

「い、一体…何なんだ?」

樋口がゆっくりと窓の方へ近づきカーテンを開ける。
すると、そこには木に登った状態の髪や服がびしょ濡れな青年がいた。

『あ〜良かった。このまま雨で凍死するかと思いましたよ』

窓の外で安堵し微笑む青年はモデルと評するに相応しい程、整った顔立ちをしていた。
一瞬、俺も樋口も茫然と青年を見つめる。

『二人で僕を引っ張ってくれませんか?この距離から飛んでも、木から落ちる可能性があるので…』

そう言われて我に返り俺も窓を開ける樋口の元へと行き、二人で青年を中へ入れた。

「はぁ〜…雨に打たれ続けていたので身体が痺れてますよ〜」

まるで動物のように頭を振って雨水を弾けさせる青年を見て、俺は鞄から一枚のタオルを取り出し青年に渡す。

「大丈夫か?」

「あ、どうもです」

タオルを受け取って青年が礼を言うと、樋口が窓を閉め首を傾げて聞く。

「ところでさ…君、誰?」

青年は拭くのを止めて、俺と樋口の顔を交互に見た後に立ち上がる。

「初めまして!僕は望月千夜。貸別荘の管理人代理です」

「管理人…」

「代理?」

警察官の様に右手をピッと敬礼させる望月なる青年の言葉に、俺が呟くと樋口も後を続けて言う。
見た目から俺達よりも多分、一つか二つは歳が下だろう。
高校生に見えなくもない。
そんな望月に代理を任せるなんて事あるんだろうか?
少し疑いの目を向けていると、望月が笑みを向けて説明する。

「管理人のお爺さんが突然ぎっくり腰になって、孫である僕に代理を頼んできたんですよ〜」

「あ、なるほど。孫なのか」

樋口が納得をして事情が分かったと頷いた。
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