悲愴と憎悪の人喰い屋敷
耳を澄ますと雨とは違う水の音が近くでする。
三浦が少し開いている窓に行くので、俺も後を追う。

「あ、噴水があったんですね」

三浦が下に視線を向けたまま呟く。
俺も同じように目を向けると、部屋の真下に円形の噴水があった。
雨のせいで中の水は外へと溢れているのにも関わらず、噴水は活動を続けている。
頂点に立っている水瓶を持った二体の小さな天使像の子供が何だか可哀想に思う。
俺の隣で三浦は噴水を凝視したまま動かない。

「三浦?…な、泣いてるのか?」

窓に流れる雨の雫が顔に映っているのかと思ったが、違うと瞬時に悟り俺は驚く。
聞かれた三浦は涙を流している事に今気付き驚いて自分の涙を見る。

「え?あれ?何で…何で僕は泣いて…?」

俺と同じように天使像が可哀想になったからじゃないよな?

「…誰かの部屋って訳じゃないようだし、荷物を持って来たら良い」

もし、誰かが選んだ部屋だとすれば荷物がある筈だもんな。

「は、はい。あ…でも先に望月さんの所へ着替えを持って行きます」

涙を拭き心配させまいとしてか、三浦は明るい声でそう言うと部屋を出て行く。

「浴室の場所、分かるか?」

「誰かに聞きます」

足音を響かせて三浦は遠ざかっていく。
見送ってから何だか小腹が空いているなと感じ、俺も一階に降りようと扉へ向かう。

『……い…圭……ろ…』

「えっ」

一瞬、後ろから声が聞こえた気がして俺は振り返る。
もちろん、俺の後ろは噴水の見える窓があるだけで誰も居る筈がない。
雨の音が声に聞こえただけだろうと、恐怖を消すかのように自分に言い聞かせ俺は逃げる様に部屋を出て行った。
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