悲愴と憎悪の人喰い屋敷
《行けば分かる》の言葉が示すように、右へ曲がると石鹸の香りと浴槽の水音が聞こえてきた。
ドアを開ければ高野さんか三浦が居るのだろうか?
そう思いドアを開けるが二人の姿はなく、望月の脱いだ服が籠に入っているだけだった。
いつ、入れ違いになったんだ?
高野さんは兎も角、三浦は俺より数分先に来た筈だし廊下で出会っても可笑しくないだろ。
首を傾げ望月に声をかけようとした口より先に、目前の引き戸が開く。

「良いお湯でした〜」

まるで俺の存在に気が付いていたかの様に、腰にタオルを巻いた姿の望月は言う。

「そ、そうか」

望月の白い肌と小柄な体系に、俺は一瞬だけど動揺する。
同じ男なのに何で女性の裸を見たような感覚に襲われるんだよ…馬鹿か、俺は。

「あれ?それ僕の荷物ですよね?」

自己嫌悪している俺に望月が持っている荷物を見て聞く。

「暖炉の前で乾かそうと思ったんだけどさ、勝手に出したら悪いと考えて…」

説明していると望月は口元に、くの字に曲げた人差し指を当て真剣な顔をして呟く。

「扉が開けられるんだ…」

「え?」

望月の言葉が聞こえて俺は首を傾げる。
扉が開けれるって、手のある人間なら誰でも出来る事だろうに…。
眉を寄せて言葉の心理を聞こうとすると、望月は笑顔になり遮るように言った。

「服は自分で乾かしますから、置いてて下さい」

「わ、分かった。階段下のキッチンに居るから来てくれよ。部長達にも紹介するからさ」

「は〜い」

笑顔で手を振る望月に、俺は問い詰める事ができず浴室を出る。
望月の言葉は気になるが、昼間から何も食べていない腹を放っておけない。
美味しい食べ物がありますようにと祈りつつ、俺はキッチンへと急いだ。
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