悲愴と憎悪の人喰い屋敷
何かを考えている時の癖なのか、人差し指をくの字に曲げて唇に当て難しい顔をしている。

「千夜くん?長椅子がどうかしたの?」

硝子さんが望月に聞き、全員が長椅子に視線を向けた時だ。
何の前触れもなく異変が起きる。

「きゃっ!…な、何なの?」

突如、長椅子の上に血のような赤い液体が出現しジワリッと広がった。
望月を除く俺達三人は異常な事態に顔を見合わせる。

「た、多分…雨漏りじゃないか?それが椅子の上に落ちたんだ」

赤い椅子だし血に見えたと樋口が上を差して結論づけ、俺と硝子さんも大きく何度も頷いた。
そして、今見た不気味な現象を忘れようとするかのように硝子さんは明るく望月に聞く。

「そ、そうよね。雨漏りが気になって長椅子を見ていたのよね?千夜くん」

長椅子から目を逸らし顔を上げた望月に、俺達は同意を求める視線を送る。
だが、望月は期待外れの返答を返した。

「いいえ、違いますよ」

おい!ここは嘘でも頷くところだろ!
恐怖を煽るなと叫んでやりたい。
どんな事を口にするつもりだと覚悟している俺達を余所に、望月は微笑んで暖炉に目を向ける。

「小さい頃に住んでいた家と似ているな〜と思ったんですよ。長椅子も同じ形で驚きました」

俺達は同時に脱力した。
ハリセンがあったら望月の頭を、はたいてやりたい。
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