悲愴と憎悪の人喰い屋敷
まあ、怖い事を口にされるよりマシだったけどな。

「そろそろ、部屋に戻って休むか。部長の捜索は明日でも良いだろ?」

普段から部長を良く思っていない樋口はため息混じりに言う。
樋口が俺に求めた言葉は、硝子さんが頷き返答した。

「そうね…別館に行ってるのなら捜すの大変そうだもの」

雨の降る外に目を向けて言うので、俺は首を傾げて聞き返す。

「別館?別荘の外にあるんですか?」

三浦とココヘ来る時、この別荘以外の建物はなかったと思うが?
俺の問いに硝子さんは口元に手を当てて笑う。

「浴室の先に別館に続く渡り廊下があるのよ。グランドピアノもあったしパーティー会場に使う建物じゃないかしら」

浴室の先と聞いて、もしかしたら三浦は別館に行ったのではないかと思考する。
だとすれば、廊下ですれ違わなかったのも頷ける。

「それじゃ、あたしは部屋に戻って休ませて貰うわね」

硝子さんは小さくあくびをして、俺達に手を振ると居間を出て行く。

「俺達も戻ろうぜ」

「だな…あ!望月は部屋が決まってなかったよな。どこで寝るんだ?」

今から探すかと樋口が言うのに対し、望月は笑って首を振った。

「僕はここで寝ますよ〜。何だか懐かしいので」

「そうか。じゃ、また明日な」

おやすみなさいと答える望月を見届け、俺達は二階に上がる。
自分の部屋ノブに手を掛けた樋口は別れ際、微笑んで俺に言った。

「胱矢、夜中に出歩くなよ。おやすみ」

「分かってる。おやすみ」

苦笑して俺が返答すると、樋口は小さく頷き自分の部屋に入って行く。
さてと、俺も天蓋付きのベッドで身体を休ませるか。
大きくあくびをして部屋に入ろうとした時だった。

「え…」

何だ?
誰かが呼んでいる?
自分でも分からないが《別館に行かなければ!》という衝動に駆られ、俺は渡り廊下を目指して走り出していた。
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