悲愴と憎悪の人喰い屋敷
《やっと…見つけ…た》

低い声が頭に響いて、驚いた俺は弾かれたように後ろを振り向く。
それを待っていたのか黒い霧のようなものが、床から煙の如く滲み出てきた。

「なっ…」

信じられない光景を目にして、三浦を抱いたまま背中に扉を預けて俺は驚く。
そのまま黒い霧はジワジワと近づき、逃げ場のない俺の足を覆い隠す。
う、動けない!?
何なんだよ…これ
霧のせいなのか自分の足が石になったみたいに、指先一つ動かすことができない。
徐々に霧が俺の首まで達した時、再び低い声が聞こえる。

《…それ…を…返せ…おまえのせいで…私…の…》

返せ?返せって何の事だよ

「うっ…やめ…ろ…知ら…ない」

霧のせいか息まで苦しくなり、俺は必死に声を出した。
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