悲愴と憎悪の人喰い屋敷
「……ん…」

ブレスレットを見つめたまま考え事をしていると、ベッドから微かに声が聞こえてきた。

「三浦?目を覚ましたのか?」

目覚めたばかりの三浦を刺激しないように、俺は声を落としてベッドへと近づく。

「あ…れ?北川…先輩…?」

まだ意識がハッキリしないのか三浦は茫然と頭の中で状況を把握しようとしている様子だった。
俺は上体を起こそうとしている三浦を静かに止めてベッドに戻す。

「起きなくて良い。どこか痛むところはあるか?」

「…大丈夫…です」

間を置いて確認し笑うところを見ると本当に痛いところはないようだ。
まだ衰弱しているようだが、ひとまず安堵をして俺は膝を着き三浦に聞く。

「どうして、別館に行ったんだ?」

高野さんなら兎も角、三浦が好奇心だけで別館に行くとはあまり考えられない。
選んだ部屋で俺が待っているかもしれないと思い、駆け戻るのが三浦らしいからな。
俺の疑問に三浦はポツリと呟いた。

「ピアノ…ピアノの音が…聞こえたんです」

「別館にあったピアノか?」

確認するように聞くと、三浦は小さく頷き話を続ける。

「兄さんが…よく弾いていた曲だった…から…確かめたくて…」

「え?」

三浦に兄が居た事にも驚いたが、言葉の中に過去形の単語が出てきたので不思議に思う。
昔のことを懐かしんで言ったにしては、三浦の顔はどこか寂しげに見えた。

「もしかしたら…って……」

「…三浦?」

「また、眠ってしまったみたいですね」

後ろから三浦の顔を覗き込み望月が言う。
衰弱が激しいために体が無意識に眠りへと誘ったんだろうか?
とりあえず、解った事は三浦がピアノで呼び寄せられたって事だ。
俺だったら雨の降る夜、ピアノの曲が聞こえてきたら怖くて逃げるだろうな。
だけど、三浦の言った『確かめる』とはどういう意味なんだ?
俺たち以外の人間が別荘に居ないのは三浦も理解していた筈だぞ。
まさか…三浦の兄は…。
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